ひと目見たときから、沈胴ズミクロンにそっくりな姿に惹かれて、ずっと気になっていたレンズがあります。
それは「Voigtländer APO-LANTHAR 50mm F3.5 Type I」です。クラシカルな外観と控えめなスペックは、現代の大柄なレンズとは一線を画し、特別な魅力を放っています。本レンズには「Type II」 も存在しますが、今回ご紹介するのは「Type I」です。ところがこの「Type I」は、「Type II」に比べて情報が非常に少なく、レビューや作例もあまり見かけません。
本記事では、実際の使用感をもとに、見た目や描写の魅力をご紹介します。購入を検討されている方の参考になれば幸いです。
※本記事にはアフィリエイトリンクを含みます。ご了承ください。
スペック
今回は、私が所有している、同じコシナのレンズ「Voigtländer NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC」、「Voigtländer HELIAR 40mm F2.8 Aspherical」との比較で下表にまとめました。
| 名称 | Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F3.5 TypeⅠ ( 当該品 ) | Voigtländer NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC ( 比較品A ) | Voigtländer HELIAR 40mm F2.8 Aspherical ( 比較品B ) |
| メーカー | コシナ | ← | ← |
| マウント | バヨネット式 VMマウント (ライカMマウント) | ← | ← |
| フルサイズ対応 | ○ | ← | ← |
| 焦点距離 | 50mm | 35 mm | 40 mm |
| 絞り値 | 3.5 〜 22 | 1.4 〜16 | 2.8 〜 22 |
| 絞り羽根枚数 | 10枚 | ← | ← |
| レンズ構成 | 6群8枚 | ← | 3群5枚 |
| 最短撮影距離 | 0.45 m | 0.7 m | ← |
| 最大撮影倍率 | 情報なし | ← | ← |
| フィルター径 | 34 mm | 43 mm | 34 mm |
| オートフォーカス | なし | ← | ← |
| 手ブレ補正 | なし | ← | ← |
| 外装材質 | 金属 | ← | ← |
| 絞りリング | あり | ← | ← |
| サイズ ( 直径 × 長さ ) | 52 × 45 mm | 55.0 × 28.5 mm | 52 × 21.2 mm |
| 重量 | 245 g | 189 g | 131 g |
| カラーバリエーション | マットブラック / ツートーン | ブラックのみ | ブラック / シルバー |
| 新品価格 | 93,420円 〜 | 57,930円 〜 (MC) 61,920円 〜 (SC) | 53,300円 〜 |
| 中古価格 | 77,800円 〜 | 情報なし (MC) 60,000円 〜 (SC) | 情報なし |
※当該品が比較品よりも優れる項目を青字で、劣る項目を赤字で記載しています。
「Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F3.5」は、開放絞りf3.5で三者の中で最も暗いです。現代レンズの中では控えめな数値でしょう。しかしこれは、「APO-LANTHAR」の名を冠することからも分かる通り、光学性能を追求したからに他なりません。
「APO-LANTHAR」の名はVoigtländerの中でも特に高い光学性能を追求したハイエンドモデルのみに与えられる称号です。
このレンズには「Type I」と「Type II」の2種類があります。両者、光学性能は一部を除きほぼ同じで、外装が大きく異なります。TypeⅠは「沈胴ズミクロン」を、TypeⅡは「ズミルックス 2nd “いわゆる貴婦人”」を彷彿とさせる、いずれも素晴らしいデザインです。また、カラーバリエーションは、TypeⅠがマットブラックとツートーンの2色、TypeⅡはマットブラックとシルバーの2色展開になっています。外観は下記リンクの写真をご参照下さい。カラーによって材質も異なります。以下ではTypeⅠのツートーンについて記載します。(上表も同様です)
最短撮影距離0.45mと、Mマウントレンズの中では珍しく「寄れる」のが特徴です。また、質感を追求し鏡筒は真鍮で作られ、表面はクロームメッキ仕上げになっており、その結果、重量は245gと若干重くなっています。Type Iにはマットブラックとシルバーとのツートーンの2色展開があり、のちに限定カラーとしてネイビー、グレー、オリーブも追加されました。クラシカルなデザインを好む方にとって、見た目の選択肢が多いのも魅力のひとつです。
外観・デザイン
それでは、さっそく見ていきましょう。今回ご紹介しますのは、「タイプⅠ」の「ツートン」です。
レンズ単体

箱はのデザインは落ち着いたツートーンで、ふたつの比較品と共通です。最近、我が家にはよくこの箱がやってきます。何度見ても、毎回このレンズの絵が描いてあるのがいいなぁと思ってしまいます。

箱からレンズを取り出しました。箱には前後キャップとフードが付いた状態で、袋にくるまれ、緩衝材に保護された状態で入っていました。レンズのみならず、包装仕様の細かなところまで気遣いが行き届いております。前キャップは「Voigtländer HELIAR 40mm F2.8 Aspherical」のものと共通で、使い回せるのが嬉しいポイントです。

前後キャップを外しました。前キャップはフードの上からでないと付けられません。前キャップ、フード、更にレンズ根本のヘリコイドがマットプラックに塗装されており、重厚感を感じます。距離指標など、刻印されている文字も見やすくなっています。

フードを外してみました。ペイント部を除けば、「沈胴ズミクロンそのもの」といっても過言ではありません。但し、本レンズはデザインをオマージュしているものの、沈胴はしません。沈胴により接触し合う金属部品が摩耗し、その際に生じた金属粉がセンサーに付着するのを防止する為だそうです。レンズの先端に絞りリング、根本にフォーカスリングがあり、後者はブラックペイントになっています。
SIGMA fpとの組み合わせ
シグマfpに取り付けてみました。

コンパクトなfpに付けると少々レンズが長いように感じます。また、重量が、fp:370gに対し、本レンズ:245gでフロントヘビーになり、ネックストラップをつけてぶら下げると「お辞儀」します。また、fpにはグリップがない為、長時間握りしめるのは厳しいかもしれません。別売のハンドグリップを付けるのが得策かもしれません。

とは言え、このルックスです。なかなか、この組み合わせで使っている人を見ることはないでしょう。「特別感」を発揮できていいと思います。
余談ですが、妻がふとつぶやいた一言「小学校で使った、顕微鏡の対物レンズのよう」というのが「言い得て妙」だなと思いました。
NIKON Zfcとの組み合わせ
お次はニコンZfcに取り付けてみました。

悪くないですね。ただ、マウントアダプターを介して異物が取り付けられている感は否めないですね。比較品として取り上げた、「Voigtländer NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC」や「Voigtländer HELIAR 40mm F2.8 Aspherical」を取り付けた時ほどの、神がかり的な一体感はないかもしれません。

カメラの大きさに対し、レンズがかなり前方まで出ますので、先端をぶつけないように注意する必要がありそうです。
NIKON Z6Ⅱとの組み合わせ
最後はニコンZ6Ⅱに取り付けてみました。

本レンズを装着したときの眺めは、3機種の中で最も美しいと感じました。まるでZ6IIが、まったく別の存在へと生まれ変わったかのようです。サイズ感や重量(Z6II:約615g)とのバランスも良好で、前2機種で見られたような“お辞儀”も起きません。
モダンな印象のZ6IIに対し、このレンズはクラシカルな要素を加えてくれます。両者がぶつかり合うことなく、美しく溶け合っているのが印象的です。特に、ツートーンの金属鏡胴には、沈胴ズミクロンを思わせる控えめで上品な風格があり、Zシリーズのブラックボディとも驚くほど自然に調和しています。

Z6IIのような現代的なボディに装着すると、逆にこのレンズの存在感が際立ちますね。まるで骨董品のような外観は、手に取った瞬間から私の気持ちを高めてくれます。持ち歩くだけでも気分が上がります。「特別な物」を使っている、という気にさせてくれるのです。しばらく、私のZ6IIにはこのレンズが付けっぱなしになりそうです。
操作性・使いやすさ

他のマニュアルレンズ紹介でも何度か述べておりますが、光の3要素(ISOダイヤル・シャッタースピードダイヤル・絞りリング)をひと目で把握することができるのは、嬉しいポイントです。(Z6IIの場合、ISO感度とシャッタースピードは肩液晶に表示されます)
開放f値は3.5と控えめですが、手振れ補正機構を搭載するZ6IIとの組み合わせであれば、シャッタースピードが落ちて来るくらい環境下でも、ある程度対応できます。
絞りリングとズームレンズは、配置と直径が異なる為、誤って操作することはまずないでしょう。絞りリングは鏡筒の先端にあり、2分の1段ごとに止まります。クリック感も心地よく、ストレスなく操作することが可能です。ズームリングは鏡筒の根本にあり、ほどよいトルク感で滑らかに回ります。使い始めた頃、マウントアダプターのヘリコイドと見間違いそうになることがありました。ただ、慣れれば指先が各々の直径を覚え、ノールックで操作することになり問題ないと思います。
「Voigtländer NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC」や「Voigtländer HELIAR 40mm F2.8 Aspherical」と比べても、本レンズが最もマニュアル操作しやすいと感じました。
作例

f11では四隅まで綺麗に解像しており、色収差や光量落ちは見られず、風景撮りにも問題なく使うことができる。

樽型や糸巻き型の歪曲収差も特に見られない。

こちらにおいても、色収差、周辺光量落ち、歪曲収差は見られない。

M型ライカ用のレンズとしては珍しく、0.45mまで寄ることができる。(一般的に、M型ライカのレンズは最短撮影距離0.7mのものが多い) 擬宝珠に寄り、ピントを合わせた。ピント面は綺麗に解像しており、また開放f値は3.5と暗いながらも、くせのない綺麗なボケを有する。

シャープに解像しているにもかかわらず、どこか懐かしさの残る不思議な描写をする。

シャープさとノスタルジックな味を合わせ持つ不思議なレンズだ。

夕方以降の暗い時間帯でなければ、スナップのお供として非常に頼もしい。

作例は以上です。
まとめ
① クラシカルな外観と所有感
往年の沈胴ズミクロンを思わせるクラシカルな佇まいで、
金属鏡胴の質感や、クロームメッキ仕上げの表面など、
その美しさが所有する喜びを感じさせてくれます。
② 良好な操作性
外観のみならず、細かな部分まで気配りが施され、
快適なマニュアル操作を楽しむことができます。
③ 写り編
非球面レンズが贅沢に使われていることもあり、
色収差、周辺光量落ち、歪曲収差は見られませんでした。
但し、今回のテストではf8以上に絞って撮った為、
開放付近での描写については別途、確認予定。
シャープさとノスタルジックな味を合わせ持つ不思議な描写。
いかがでしたでしょうか。
この記事が、レンズ選びで悩む方々にとって、少しでもお役に立てば嬉しいです。
今回、比較品として取り上げた「Voigtländer NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC」や「Voigtländer HELIAR 40mm F2.8 Aspherical」が気になる方は、こちらの記事もご覧下さい。どちらもいいレンズだと思いますよ。
参考
マウントアダプタをご検討の方には、日本メーカー品の新品購入を強く推奨します。
以下に推奨品のリンクを貼っておきます。ライカMマウントから、各社マウントに変換してくれます。Voigtländerのマウントアダプターはヘリコイド付きで、最短撮影距離を縮めることができます。
ライカ Lマウント用です。 (メーカー:宮本製作所、ブランド:RAYQUAL)
ソニー Eマウント用です。 (メーカー:コシナ、ブランド:Voigtländer)
ニコン Zマウント用です。 (メーカー:コシナ、ブランド:Voigtländer)
富士フイルム Xマウント用です。 (メーカー:コシナ、ブランド:Voigtländer)



コメント