発散と収束|カメラ機材の整え方

マインド

はじめに

新しいものを生み出すときに必要なのは、アイデアを広げる「発散」と、絞り込んで形にする「収束」だという。これはイノベーションの世界で広く知られる考え方で、新製品の開発や新規事業の創生において基本的なプロセスとされている。

この話を耳にしたとき、私はふと思った。カメラ機材のラインナップを考えるときも、まさに同じではないか、と。

発散のフェーズ:可能性を広げる

発散とは、とにかくアイデアを否定せずに広げていく段階だ。ビジネスの現場では、ブレインストーミングや市場調査などがこれにあたる。「どんな課題があるのか?」「どんな可能性が考えられるのか?」を洗い出し、視野を狭めずにあらゆる方向性を探っていく。

写真機材に置き換えると、この段階は「物欲を解放する時期」とも言えるだろう。
・あのレンズで夜景を撮ったらどうだろう
・あのボディならもっと軽快にスナップできるかもしれない
・中判デジタルで風景を撮る夢もある

こうした思いつきを「無駄だ」と切り捨てるのではなく、とにかく書き出して眺めてみる。まさに発散である。

収束のフェーズ:必要なものに絞り込む

収束とは、発散で出したアイデアや候補を整理し、実際に選択する段階だ。企業の新規事業でいえば、事業性や収益性を検討し、実行可能なプランに落とし込む場面にあたる。発散したままでは現実にならない。リソースや制約を踏まえ、可能性を絞り込むことで初めて前に進む。

機材選びでいえば、収束はこうだ。
・自分の撮影ジャンルに本当に必要なのはどの焦点域か
・予算と重量を考えて、日常的に持ち出せるのはどの組み合わせか
・仕事で使うなら信頼性やサービス体制はどうか

こうして現実の事情を鑑みて「残すもの/手放すもの」を決める。ここで大事なのは、発散の段階としっかり分けることだ。

よくある失敗:「発散と収束の同時進行」

ありがちなのが、発散と収束を同時にやってしまうことだ。

たとえば「新しいレンズが欲しいから、今のレンズを売る」。これは可能性を広げる発散と、目先の資金を得たいが為の収束を同時にやっている状態だ。一見合理的に見えるが、これが失敗の温床になることは少なくない。

「手放したレンズが後になって必要だった」
「新しく買った機材が思ったほど使えなかった」

そんな経験をした人は多いだろう。私自身も経験がある。

「新」と「旧」を一定期間、同時に所有・使用し、真に良いと感じたものを残さくなくてはいけない。「旧」に戻れる可能性を絶ってはいけない。

イノベーションから学ぶ

実はこの「発散と収束の順序」は、企業のイノベーションプロセスでも強調されている。

たとえばデザイン思考(Design Thinking)では、最初に「共感」と「定義」を行い、課題や可能性を広げてから、次第にアイデアを絞り込み、試作や検証につなげていく。IDEOやスタンフォード大学d.schoolの方法論でも「発散と収束を繰り返すこと」が重要視されている。

また、新製品の開発現場でも「ダブルダイヤモンド」と呼ばれるモデルがある。最初に課題を発散し、定義で収束。次に解決策を発散し、実行で収束。こうして段階ごとに広げては絞り込むことで、より確かな成果物が生まれるのだ。

つまり発散と収束を明確に分けるのは、何も趣味の話だけではなく、世界中の企業が実践している普遍的な知恵なのである。

機材ラインナップも同じ

では、写真機材にどう応用できるだろうか。

発散の段階では、遠慮せず欲望をリストアップすればいい。気になるレンズやボディ、憧れのシステム、過去に手放した機材まで書き出す。妄想でも構わない。「全部買うのは無理だから…」といった現実的な制約は、この段階では考えないことだ。

収束の段階になったら、冷静にフィルタリングする。
・自分が一番多く撮る被写体は何か
・重さとサイズを考えて日常で使えるのはどれか
・予算的にどの範囲まで許されるか
・長期的に残すべき機材は何か

こうした基準に照らし合わせて残していく。すると「本当に必要なラインナップ」が見えてくる。

発散と収束を繰り返す

もちろん、これは一度やれば終わりではない。写真のスタイルや関心は時間とともに変わる。だからこそ、発散と収束を何度も繰り返すことが大切だ。

企業の新製品開発が何度も試作と検証を繰り返すように、私たちの機材選びもまたトライアルの連続だ。失敗も経験のひとつとして蓄積され、次の収束をより精度の高いものにしていく。

まとめ

発散と収束。このサイクルは単なる思考法ではなく、自分に合った理想の機材ラインナップを構築する上で欠かせないプロセスだ。

とりわけ重要なのは、発散の段階で萎縮しないことだろう。「予算的に無理だから」「使う機会が少ないから」と早々に可能性を切り捨ててしまえば、アウトプットもその範疇に収まってしまう。やれる範囲で発想を縮めてしまえば、その結果もまた小さなものにとどまる。

だからこそ、まずは自由に広げることだ。夢や欲望を制限せず、頭の中にある選択肢をすべてテーブルに並べる。その上で、現実に照らして収束させればよい。発散で大きく羽ばたき、収束で地に足をつける。その繰り返しが、自分の写真表現を支える真のラインナップを生み出す道筋になるのだ。

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