はじめに
「フォクトレンダー (Voigtländer)」という名前、写真・カメラ好きの方であれば、一度はお聞きになったことがあるのではないでしょうか。興味はあるけれど情報が少なく、なかなか手を出せない……皆様の、そんなお声が聞こえてくるような気がします。
フォクトレンダーは、現在日本のコシナが製造しているマニュアル単焦点レンズや周辺機材のブランドで、そのルーツは1756年創業の世界最古級の光学メーカーにまでさかのぼります。歴史あるブランドでありながら、日本では店頭に展示されることがほとんどなく、実物を手に取る機会が限られているのが現状です。
フォクトレンダーの最大の魅力は、「見た目・手触り・質感・操作感」といった、スペックだけでは測れない官能的な部分にあります。金属外装のひんやりとした手触り、適度な重量感が手のひらに伝わる感覚。絞りリングの小気味よいクリック感や、ヘリコイドを回したときのしっとりしたトルク感。そしてレンズを構えたときのバランスの良さや、操作するたびに伝わる安心感――。
これらすべてが、フォクトレンダー独特の官能的体験を形成しています。しかし残念ながら、この“ウリ”は店頭で体感する機会がほとんどなく、それが購入に踏み切れないジレンマを生んでいます。その結果、「やっぱり純正でいいか」と選択してしまう方も少なくないのではないでしょうか。
この記事では、そのフォクトレンダーならではの魅力と、ラインナップの概要を分かりやすく紹介していきます。
ラインナップのご説明
フォクトレンダーは多様なラインナップを展開しており、用途や好みに合わせて選べます。選ぶ上の切り口として、マウント、グレード(明るさによって呼称があります)、焦点距離、重量、デザインとカラーバリエーション、コーティングの種類、があります。また、同一光学系でもデザインと機能が異なる複数タイプの設定があったりもします。価格帯もさまざまですので、これらを踏まえ、候補を絞るのがいいでしょう。以下に、各項目の簡単な説明を記載します。詳細は、コシナの公式カタログをご参照下さい。
マウント
多様なマウントに対応したレンズが展開されています。バルナックライカのL39マウント用や、かつてユニバーサルマウントと呼ばれたM42マウント用のレンズも展開されています。
- ライカ Mマウント 用 (Voigtländerの頭文字を取り、VMマウントと呼ばれています)
- ライカ L39スクリューマウント (バルナックライカ用)
- M42マウント 用
- キヤノン RFマウント 用
- ソニー Eマウント 用
- ニコン Zマウント 用
- 富士フイルム Xマウント 用
- マイクロフォーサーズ 用
- キヤノン EFマウント 用
- ニコン Fマウント 用
グレード
基本的に、明るさやレンズ設計によってグレード(呼称)が決められています。
- NOKTON (ノクトン):以下F1.5 (明るく柔らかい描写、ボケ味重視)
- ULTRON (ウルトロン):F1.5より大きく、F2以下
- COLOR SKOPAR (カラースコパー):F2より大きい
- HELIAR (ヘリアー):へリアタイプのレンズ (高コントラストで、少し硬めの描写)
- APO-LANTHAR (アポランター):収差補正された、解像力重視のアポクロマート設計
(引用元:コシナ公式HP)
焦点距離
15mm、21mm、28mm、35mm、40mm、50mm、90mmなどがあります。特に、標準~中望域のラインナップが充実しています。
重量
フォクトレンダーのレンズは全てマニュアルフォーカスで、オートフォーカス機構を組み込む必要がない為、コンパクトかつ軽量な仕上がりになっています。しかしながら、素材はアルミニウムや真鍮などの金属でできており、適度な重量感があり、またその質感や手触りは、M型ライカのレンズそのものと言っても過言ではありません。
カラーバリエーション
一部のレンズには、ブラックとシルバーの2種類があり、カメラとの外観上の相性や、好みによって選択することができます。
コーティング
NOKTON Classic 35mm F1.4や、40mm F1.4など、 一部のレンズにはSC(シングルコート)とMC(マルチコート)の2種類があります。前者がオールドレンズライクな描写をするのに対し、後者は現代レンズに相応しい反射防止・フレア対策が施されており、好みによって選択することができます。
NOKTON Classic 35mm F1.4の、SCとMC。
NOKTON Classic 40mm F1.4の、SCとMC。
タイプ (デザイン)
COLOR SKOPAR 28mm F2.8 Asphericalや、APO-LANTHAR 50mm F3.5など、一部のレンズには、同一光学系でもデザインと機能が異なる複数タイプの設定がありもします。好みに応じて選べるのも、嬉しいポイントですね。
COLOR SKOPAR 28mm F2.8 Asphericalの、TypeⅠとⅡ。
APO-LANTHAR 50mm F3.5の、Type ⅠとⅡ。
価格帯
4万円台から20万円超えなど様々ですが、特に5〜12万円あたりのラインナップが充実しております。カメラメーカー純正品に比べて、コストパフォーマンスが高いのも魅力のひとつです。
保有レンズと活用方法
私はこれまで、フォクトレンダーのレンズを5本使用してきました。内一本はZマウント用で、残り四本はVMマウント用です。M型ライカのボディーは持っていませんが、マウントアダプターを介してニコンZ6II、Zfc、そしてSIGMA fpで使用しています。複数のカメラで同じレンズを楽しめるため、撮影スタイルに柔軟性が生まれるのは大きな利点です。なお、フォクトレンダーのマウントアダプターには、VMマウントから各種マウントに対応したものがあります。
- NOKTON D35mm F1.2
- NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC
- HELIAR 40mm F2.8 Aspherical
- NOKTON 50mm F1.2 Aspherical Ⅱ
- APO-LANTHAR 50mm F3.5 TypeⅠ
マウントアダプター (VMマウント → ニコン Zマウント 用)
マウントアダプター (VMマウント → ソニー Eマウント 用)
マウントアダプター (VMマウント → 富士フイルム Xマウント 用)
マウントアダプターは、フォクトレンダーやRAYQUALなど、日本メーカー製の購入・使用を推奨します。
オススメのレンズ
最初の一本を探している方
まず試しに一本、という方には Voigtländer NOKTON Classic 40mm F1.4 をおすすめします。価格は4万円強と比較的手頃ながら、軽量で明るさも兼ね備えています。さらに、この価格帯からは想像できないほど高いビルドクオリティも魅力です。
描写は収差をあえて残したノスタルジックな雰囲気で、オールドレンズに憧れるけれど中古品の劣化や個体差が不安、という方にもぴったり。コーティングは SC(シングルコート) と MC(マルチコート) の2種類があり、よりオールドレンズライクな写りを求める方にはSCを選ぶと良いでしょう。
軽量・コンパクトさを重視する方
軽さと取り回しやすさを最優先にするなら、以下の3兄弟がオススメです。
- COLOR-SKOPAR 28mm F2.8 Asphericall は広角寄りで、街中のスナップや風景に最適。
- COLOR-SKOPAR 35mm F3.5 Aspherica はわずか99gで、広めの準標準画角。街中のスナップにぴったり。
- HELIAR 40mm F2.8 Aspherical は自然な標準寄りの画角で、旅行や日常使いの万能選手。は落ち着いた標準画角で、じっくりと被写体と向き合う撮影に最適。
いずれも質感が高く、ポケットにも入るほどのコンパクトさ。さらに、その名が示す通り非球面レンズを贅沢に採用しており、高いコントラストとシャープな描写、そして十分な解像感を実現しています。
「荷物は最小限にしたい。でも、描写や質感には妥協したくない」――そんな欲張りな希望を叶えてくれるのが、このシリーズです。
ビジュアル重視、個性派デザインをお求めの方
これはあくまで私の主観になりますが、ライカの沈胴ズミクロン50mm F2のデザインをオマージュした「NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC TypeⅠ」は特におすすめしたい一本です。ツートーン仕上げは真鍮製で重厚感があり、ブラック仕上げはアルミ製で軽量。真鍮ならではの深い質感を楽しむか、携帯性を重視して軽さを取るか――自分のこだわりに合わせて選べるのが大きな魅力です。
明るさやボケ味を楽しみたい方
大口径NOKTONシリーズは開放でのとろけるようなボケを堪能でき、ポートレート撮影にも最適です。
解像力を最優先する方
APO-LANTHARシリーズは、アポクロマート設計により色収差を抑え、高い解像力を実現しています。現代的な光学設計を採用しており、収差や色ズレを極力抑えつつ、クリアでシャープな描写を得られるのが特徴です。作品づくりに妥協したくない方や、細部まで精密に描写したい方に特に向いています。
おわりに
フォクトレンダーは、性能だけでは語れない「官能的魅力」が最大の特徴です。スペック表には現れない手触りや重量感、操作感の楽しさを体験できるブランドであり、マニュアルレンズの醍醐味を存分に味わえます。店頭で体験できないジレンマはありますが、それを理解すれば購入の迷いも少なくなるはずです。 この記事を通じて、フォクトレンダーの魅力とラインナップをつかみ、ぜひ自分の手でその官能的体験を確かめてみてください。






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